ハッピーバースデー



 この世界は、様々な世界の断片が寄り集まってできている。常に別の世界同士が途中から混ざり合っており、森を歩いていたら突然ビル街に出るなどということは日常茶飯事だった。
 その事象は何かしら一定の規定があるらしいのだが、詳しく知っているものは誰もいなかった。ただ、分かることは一度世界が繋がると数日以上繋がっていること。数日後に掻き消えてしまうこともあるが、時には普遍的にその場所にあり続けることもあった。
 初めの頃は中々慣れることはできなかったが、それでもそれを受け入れなければ生きていくことはできない。スコールは、未だ慣れないこの感覚に戸惑いながらも何とかこの場所で日々を過ごしていた。
「おーい。スコール。こっちこっち!」
 斥候に出ていたジタンが手を振っている。そのような行為に出られるということは、敵やイミテーションの兵達はいなかったということだろう。スコールは重い腰を上げて立ち上がるとジタンの方へと歩き出した。
これまでの草原を抜けると、突然足元がアスファルトに覆われた地面を踏んだ。
「…ここは…」
 その目の前の光景に、スコールは言葉を失う。不可思議な建物。骨組みを金属で作られたその建物に、何故かスコールは見覚えがあった。
「なんだ。ここは…」
「不思議なところだろ?多分だいぶ文明が発達してるんだ。オレの知ってる建物とも大分違うしな」
 ジタンが周囲を見回しながら笑った。それに頷こうとしたスコールだったが、何故か頭のどこかで自分はこの場所を知っているという声が聞こえていた。
「俺は…見覚えがあるような気がする…」
 スコールの言葉に、ジタンがやっぱりと頷いた。
「バッツー。やっぱりスコールが知ってるかもってよ」
「おうー」
 ジタンが叫ぶと、どこからかバッツの返事が返ってきた。しかし声は聞こえるが姿は見えない。
「バッツはどこに行ったんだ?」
 スコールが尋ねる。が、ジタンは微かに首を傾げただけだった。この建物を見た瞬間に歓声を上げて冒険に出てしまったらしい。
「敵がいるかもしれないのにか?」
「大丈夫だって言って。あっという間に」
 肩を竦めるジタンを見下ろして、スコールががっくりと肩を落とした。毎回思うことだが、何故一番の年長者が一番慎重という言葉から程遠いのだろうか。
「ジタン!スコール!こっち来てくれ!」
 バッツの声のするほうに二人が歩いていくと、バッツが目をきらきらさせてドアの前に立っていた。
「ここ。ドアが勝手に開くんだぜ」
 バッツがドアを指差して言う。バッツにとっては初めてなのだろうその自動ドアに、何故かスコールは懐かしさを覚えて眉を寄せた。
「ここは…」
 ドアの前にスコールが歩み寄ると、シュンッという音がして、ドアが開いた。バッツが後ろで声を上げているが、それを無視して中へと進んでいく。その後姿がやけに切羽詰っているようで、ジタンとバッツは何も言わずにスコールを見守っている。
 スコールは、二人のことなど忘れたかのように奥の部屋へと進んでいくと周囲を見回し、時には物を移動させている。その異様な光景に、ジタンが声をかける。
「スコール。どうしたんだよ」
「ここは、俺の部屋だ」
 呟くようにスコールが言う。
「スコールの部屋?」
 二人が声を上げ、きょろきょろと辺りを見回し始める。彼らはクローゼットを開けたり机の上をいじったりと興味津々に目を配っている。
その様子を眺めながら、スコールは一人ベッドに腰掛ける。はっきりと思い出したわけではないが、この部屋には見覚えがあった。枕もとの雑誌やアクセサリーケース。整理してあるように見えて実は乱雑に置かれた雑貨などは、どれも愛着を感じるようなものばかりだ。
 ぼうっと思考を辿っていると、突如バッツの顔が自分の目の前に現れた。
「!」
 驚きの余り、声もなくのけぞったスコールの様子に、バッツは小さく吹き出している。バッツの様子に拗ねたように眉を寄せ、スコールは唇をきつく結んだ。
「ごめん」
 まだ笑いながらも、バッツは手に持っていたものを差し出した。
「これ、何だ?」
 目の前に突き出されたものに、スコールは一瞬首を傾げる。それは、何の変哲もない卓上カレンダーだった。
「カレンダーだろう…」
 何を言っているのか分からないとバッツを見上げるスコールに、今度は逆にバッツが首を傾げる。
「カレンダーって、何だ?」
「カレンダーは、カレンダーだろう。日付を知るためのものだ」
「つまり、暦ってことだろ?」
 二人の会話を横で聞いていたジタンが、会話に割ってはいる。
「暦…?」
 まだ、分からないらしいバッツが、ジタンに尋ねる。
「ん〜。なんて言ったらいいんだ?夏至とか豊穣祭とかをさ、分かりやすくするために数字を当てて分かりやすくしたもの?」
 ジタンの説明に、バッツが声を上げて感心する。
「へえ。すげえなぁ。そんなのにまで数を充てて数えるんだな。スコールの世界じゃ」
 改めて手元のカレンダーを眺め、感心した声を上げてバッツは再度スコールにカレンダーを差し出した。
「で、なんて書いてあるんだ?」
「…8月22日」
 スコールが答えると、バッツはふうんと頷き、再度カレンダーの日付を眺める。何事にも好奇心旺盛なこの青年はこういった雑貨にすら過度の興味を示すのだ。スコールには分からないその情熱はいっそ羨ましくも思えた。
「よし!他の部屋も探検だ!」
 勢いよく部屋を飛び出していくバッツの後を、ジタンが追いかける。そんな二人の様子を、ぽかんと眺めていたスコールは、慌てて二人の後を追いかけた。
 数時間後、あらかた回り終えた三人はスコール曰く食堂と言う場所で体を休めていた。
「ここでスコールが生活してたんだな」
 ジタンの言葉にスコールはこっくりと頷いた。
「まだ完全に記憶が戻ったわけではないが、それだけは確かだ。ここは、俺が住んでいたガーデンと呼ばれる建物だ」
「そっか。じゃあ…今日明日はさ、ここでゆっくりしようぜ」
 バッツが何を思いついたのか、楽しげに声を上げた。
「明日さ、午後いっぱいまで自由行動にしないか」
 ジタンが確認するようにスコールに尋ねる。
「構わん。どうせお前たちのことだ。勝手に行動するだろう」
 いつものことだと肩を竦めるスコールに、二人は顔を見合わせてにやりと笑った。



 翌日、目を覚ましたスコールは、ぼうっとした頭で天井を見上げた。無機質な金属製の見慣れた天井に、始めスコールは自分がどこにいるのか理解できなかった。
(ああ。そうか…。ガーデンだ)
 見慣れた景色のはずが、何故か不思議と違和感があった。軽く身支度を整えるとスコールは枕元に小さなメモと濡れた布巾をかぶせられたモーニングプレートを見つけた。食堂に食料が備蓄してあったのだろう、野菜を添えられた、ハムや卵のサンドイッチは作りたてらしくまだ温かかった。
本来は紅茶に使用するのであろうティーポットには朝ということもあってか、薄めのコーヒーが淹れられていた。
 それらを口に運びながら、プレートに添えられたカードを見る。そこには、今日は午前中はおろか午後いっぱいも、食堂に近づくことは禁止すると書かれていた。
(今日は一日一人ということか…?)
 今更のように思い、スコールは小さく溜息をつく。
ここ暫くずっと三人で過ごしていたため、いきなり一人放り出されると何をしていいのか分からなくなってしまう。
二人は昨日回りきれなかったガーデンを見て回るつもりなのだろう。一晩休んで、この場所の構造を思い出したスコールには、何が楽しいのか分からず、だからこそ今日は仲間に入れてもらえなかったのかも知れない。
 少しだけ寂しく思いながらも、スコールは久しぶりにできた空白の一日を楽しむべく部屋を後にした。



 図書館でのんびり本を開いていたスコールは、ふと気が付いて周囲を見回した。どうやら本を読んでいるうちに転寝をしてしまっていたらしい。普段なら決してありえない光景だが、誰もいないガーデンの中では気兼ねすることもなく、スコールの気も緩んでいるようだった。
(ここに敵がいないとは言い切れない。気を抜いている場合ではない…)
 そこまで思っては見たが、いわゆる住み慣れた場所というものは案外認識を変えようと思っても変わらないものだ。ついついのんびりした気分になってしまうのは仕方ないことといえた。
 椅子に腰掛けたままぼうっと天井を見上げる。自分以外誰もいないせいか、辺りはやけに静かだった。
物音一つしないという現状に、不意にスコールは不安を感じる。そうして今更に思うのは、あの二人と共に過ごしてきたこれまでの時間で、彼らを煩いと感じたことはあっても不快だと思ったことはなかったということだった。
 それだけ彼らを身近に感じていた証拠だろう。スコールはゆっくりと椅子から立ち上がると、大きく伸びをした。
「そろそろ探しに行くか」
 そう呟くとスコールは、図書室を後にした。
 ガーデンはその大半が寮と教室が占めている。それ以外の場所は医務室や体育館なども含めるが、これだけ長時間あの二人が入り浸るとなると逆に場所は絞られてくる。スコールがいた図書室には一度も顔を覗かせなかったことを考えると、他の可能性としては娯楽室や広場、食堂やテラスに限られるだろう。スコールは今いる場所から一番効率の良いルートを考えつつ歩き出した。
 娯楽室、広場、テラスと巡ってきたスコールだったが、そこに二人の姿は見当たらなかった。流石にここまで見つからないとスコールも不安になってくる。後は残るのは食堂だけだ…。
(もし、そこにいなかったら?実は敵がいて襲われていたのだとしたら?)
 スコールは重くなりがちな足を何とか進め食堂の前へとたどり着く。この先に待っているのは、もしかしたらぼろぼろになった仲間の姿かも知れない…。
 無意識のうちに武器の柄を握り締め、中の様子を伺う。壁に身を潜めながら少しずつ中の様子を伺っていく。
(よし…)
 呼吸を整え、スコールはガンブレードを構えて部屋の中へと飛び込んだ。
「動くな!」
 恫喝と共に食堂の中へと踏み込む。その声に驚いたのか突如の闖入者に驚いたのか、中で動いていた人影が硬直してスコールを見つめていた。
「スコール…?」
 呆然としたバッツとジタンの声に、スコールがゆっくりと武器を下ろして困惑したように辺りを見回した。
「これは…」
 食堂には、全部とは行かないまでも、花輪やリボンで飾られており、その飾りの中央にテーブルが寄せられ、その上には豪勢な料理が並べられている。
「…………」
 状況が理解できずに硬直するスコールに、ジタンとバッツは顔を見合わせ、そしてテーブルに置かれていたクラッカーを取り上げて勢いよく鳴らした。
「誕生日おめでとう!スコール」
 二人が声を揃えて言った。スコールはと言えば、現状の把握もできずに更に自分に向かってクラッカーが鳴らされた事態に更に混乱をしていた。呆然と突っ立ったままのスコールに、クラッカーの紙リボンが降り注ぐ。
「誕生日…?」
 遠い記憶の彼方にある単語に、スコールは不思議そうに呟いてみる。
「おいおいおい。自分の誕生日だろ」
 ジタンが呆れて笑った。
「そうだが…。今日は……」
「8月23日だよ」
 余りにも呆けたスコールの言葉に、今度はバッツが笑いながら答える。二人はまだ訳が分からないままでいるスコールを引っ張って椅子に座らせる。彼の目の前には所狭しと料理が並べられていた。
「お前の誕生日だって知ってさ。二人で考えたんだよ。プレゼントも今からじゃ用意出来ないしさ」
「せめて簡単でもいいからパーティーとかできないかなって。そしたらさぁ。ここに色々と材料があるからさ」
 二人ははしゃぎながらも、厨房とテーブルを行き来しながらしゃべり続けている。バッツはなにやら大皿を抱えて戻ってくるし、ジタンはフルーツの浮かんだ飲み物の入ったビンとグラスを器用に抱えてくる。人は嬉々としてそれをスコールの前に並べた。
そうして二人はそれぞれに席に着くと、グラスに飲み物を注いでいく。果実の香りがふわりと広がる。二人はそのグラスを手にして掲げると、スコールにも同じ行動を促す。何度も促され彼はしぶしぶながら同じようにグラスを掲げる。
「では、僭越ながら」
 そう言って軽く咳払いをしたジタンが、芝居がかった調子で立ち上がる。
「ここにおります我らが仲間、スコールの誕生日を祝しまして」
 そこで一度言葉を切り、ジタンはスコールへと向き直る。
「誕生日おめでとう!」
「おめでとう!」
 二人からの祝福の言葉に、スコールは眉を寄せていたが照れたように微かにグラスを掲げた。
「…ありがとう」
 照れたせいか、小さな声だったが二人には届いたようだった。満面の笑みを浮かべてグラスを当ててくる様子は何の他意もなく本当に誕生日を祝福しているのだと知れた。
 乾杯がすむと、バッツがずらりと並べられた皿から料理をとりわけていく。色鮮やかなサラダや豆の冷製スープ、こんがりと焼かれた分厚く切り分けられたステーキ肉や、スコールなどは名前も知らない野菜がふんだんに使われた料理などがあっという間に取り分けられては目の前に置かれていく。
「お前の世界の料理が分からなかったからさ。おれが作れるものだけになっちまってごめんな」
 バッツが隣で少しだけ申し訳なさそうな顔を見せた。
「いや。問題ない」
 こういう時にどんな返事をしていいか分からないスコールは、そう返すと目の前の料理に手をつける。料理をつつきながら、ジタンが思い出したように言った。
「ここにさ。すっげぇ箱が合ったんだよ。その中に食料がたくさん入ってたんだ」
 バッツがひどく楽しそうに言葉を続ける。
「そうなんだよ。あれはびっくりしたなぁ」
 二人は楽しそうに顔を見合わせて不思議だといい続けている。
「あれ、何なんだろうな。魔法の箱かな」
「魔法って。それは流石にないだろう」
「でもさ。あの中、季節無視して色んな食材が入っているんだぜ。魔法以外に考えられないって」
 二人の会話は時に謎かけだ。恐らく文明や文化の違いもあるのだろうが、彼らにとってスコールの世界は不可思議に満ちているらしい。スコールは自分の感覚で想像して見る。厨房にあって食料のたくさん入った箱というと…
「冷蔵庫か…?」
「レイゾウコ?」
「ああ。食材を保存しておくためのものだ」
 しかし、それ以外に冷蔵庫を説明する言葉を知らなかったスコールは口をつぐむ。しかし不自然に言葉を切ったスコールを気にすることもなく、二人はそれぞれにテーブルの上の料理を片付けていく。普段と変わらない会話が繰り広げられる中、ふとスコールは思い出したことがあった。
「そういえばお前たち、何故俺の誕生日を知ってたんだ」
 当然といえば当然の質問に、バッツとジタンは顔を見合わせる。二人は少しばつが悪そうに笑うと、口を開いた。
「ここでさ。探検してるときに、どっかの部屋で紙の束を見つけたんだ」
「引き出しの中にいっぱい入ってたんだよな。で、なんだろうって引っ張り出してみたら名前と顔写真が貼ってあった」
 バッツとジタンが知っているはずはないが、ガーデンは学園としての機能のほかに、傭兵のプロたるSeeDを派遣する機関でもあった。自分の顔写真と名前やプロフィールが書かれたものがあってもおかしくはない。
「そんで、もしかしたらスコールのもあるんじゃないかって思ってさ」
「探したてみたら」
「あったというわけか」
 スコールが言葉を続けると、二人はそうだというように頷いた。
「そしたら、その紙にスコールの誕生日が書いてあって、それが今日だった」
 バッツが静かに言う。いつもの阿呆のように笑うそれではなく、何かを見守るような静かな笑みだった。
もしかしたら、出身地か両親を書く欄でも見たのかも知れない。他の多くの生徒とは違いスコールのその欄は真っ白だから。
「それにしてもラッキーだったよな。見つけたのが22日で」
 ジタンの声にもいつもの覇気がなかった。しみじみと何かを思い出すように語る二人の口調に、スコールは首を傾げる。
「昨日から考えてさ。本当は驚かせてやろうと思ってたんだけどさ」
 ジタンが少しだけ悔しそうに笑った。横を見ればやはりバッツも同じように笑っている。
「そうそう。もし今日だったら間に合わなかったかも知れないもんな。昨日カレンダーとかいうのを見つけてて良かったな」
 部屋の周囲を眺めてみれば、周りの飾りは形も疎らで急いで作ったのだということが知れた。どうやらスコールの誕生日だと知ってから、この世界でのパーティーのことを調べて作ったらしい。それでもこれだけのものが作れるのだから大したものだ。
「別に、俺の誕生日なんてどうでも良かっただろう」
 思わずそう呟いたスコールに、二人の視線が突き刺さる。
「そんなことないぜ」
「お前が生まれた日なんだぞ。すごいことじゃないか」
 スコールの反応が本気で不思議だというような二人の言葉に、スコールはぐっと唇を噛む。こんな風に誰かに誕生日を祝ってもらうなど、元々慣れない事なのだ。それに…
(俺は、望まれて産まれた子供ではないのかも知れない…)
 生まれながらに孤児院で育てられた少年には自分の誕生日を手放しで喜ぶ余裕はなかった。ついそんな思考へと移ろってしまい、自然と表情が暗くなる。
「誕生日が分かってるってさ、すごいことだよ」
 バッツが静かに言う。
「そうだよな。誕生日がはっきりしてるってのはさ、スコールのところみたいに暦があって、スコールの産まれた日を覚えてくれてる人がいたってことなんだぜ」
 ジタンがやはり諭すように告げる。そう言われてみて初めてスコールは自分の誕生日が判明しているわけを知った気がした。
「それに、さ」
「オレたちはお前と会えてよかったって思ってるんだぜ」
 あの世界に飛ばされて、見知らぬ場所でたった一人放り出されて不安だったのはみんな同じ。その中でこの三人で出会えたことは奇跡だったのだと実感する。
「産まれてきてくれて、ありがとな。スコール」
「オレたちと出会ってくれてサンキュな」
 二人の言葉に、スコールは顔を背けた。後ろを向いた濃い茶色の髪から覗く耳が真っ赤になっており、わざわざ顔を隠した意味はなしていなかったが。
 二人の言葉は余りにも明け透けでそれだけに本当に心からの言葉なのだと、理解できた。ここまで手放しで自分の存在を喜んでくれる相手の存在に、何故か泣きたくなるような気持ちに駆られる。そしてその言葉にどう答えていいのか分からず、スコールは赤くなった顔をただ伏せるだけだった。
 まるでスコールの気持ちが通じたかのように、二人は満面の笑みを浮かべそのスコールの背中に飛びついた。
「スコール、誕生日おめでとう!」
「……ああ」
 改めて告げられた言葉を、スコールは今度こそ素直に受け取ることができた。



 夕方から始まったパーティーは、夜が始まってもまだ続いていた。テーブルの上に並べられていた料理やケーキは殆ど食べつくされていた。
「よし、じゃあ改めて乾杯だな!」
 ジタンが再度クラスに飲み物を注ぎ、手渡していく。
「おめでとう!スコール」
 掛け声と共に三人は一気にグラスの中身を空ける。と…同時に、スコールの体がぐらついた。
「スコール!」
 驚いたバッツが慌てて近づく。抱え起こしてみればその顔が真っ赤に染まり、目が微かに虚ろに揺らいでいた。
「ジタン…この飲み物ってまさか…」
「おっかしいなぁ。アルコールなんてちょっとしか入れなかったぜ…」
「酒入ってたのかよ!」
 叫ぶバッツの隣で、酔っ払ったスコールがやけにハイテンションに笑い出した。その異様な光景に流石の二人も顔を青ざめた。
「まさかここまで酒が弱いとは思わなかったんだよ」
「しかも笑い上戸って…」
 初めて知る事実に、二人は呆然と崩壊した獅子を眺めたのだった。