アバターをつくろう!



 最近、SNSのサービスでアバターというものを作るのが流行っているらしい。
 そう聞きつけたバッツが、ジタンに声をかけたのが昼のこと。屋上でいつものように三人揃って昼食をとっていた時のことだった。
 件のSNSというものに登録等はしていてもアバターを使用したことのないジタンは「へぇ」とそっけない返事をしていたが、ふと隣にいる人物に視線をやった。
「あれ?あのSNS、スコールもやってたよな?」
「・・・・・・ああ」
 スコールは缶コーヒーを口にしながら頷いた。
「じゃあ、アバターとか作ってんのか?どんなの?」
 目をキラキラさせて覗き込んでくるバッツに、スコールは眉間に皺を寄せた。別段隠しているわけではないが、そこまで興味深げに尋ねられることではない。それに…。
「別に、普通だ。俺はあんまり得意じゃないからな」
 作れと言われるのならば作りはするが、しかしこのアバターというものにどんな意味があるのか、スコールは今現在皆目見当がつかないでいた。
「な。見してくれよ。なあ」
「いいじゃねえか。減るもんじゃねえし」
 携帯を奪い取ろうとする二人の手から携帯を隠すと、スコールは渋面を浮かべて二人を睨みつける。
「見ても面白いものじゃない。第一、ジタンだってやっているんだろうが」
「そうだけど。オレはアバターやってねぇもん」
 低い声で言うスコールに、まるで一人勝ちしたかのようなジタンの姿。その二人を眺めていたバッツがまるでいいことを思いついたと言わんばかりに手を打った。
「なあ、スコールにおれ達のアバター作ってもらうって言うのはどうだ?」
「ぁあ?」
「・・・・・・・断る」
 名案だと諸手を挙げたバッツに、二人の痛い視線が突き刺さる。
「そんな即答で断るなよ。ジタンもそんな嫌そうな顔しなくたっていいじゃねえか。面白そうじゃんさ〜」
 スコールの背後から圧し掛かるように張り付いたバッツが携帯を差し出す。
「それに、スコールがどんなの作ってんのか興味あるしさ」
 SNS内の同じグループに登録していると、メールをアバターが運ぶのだと聞いたのだろう。バッツの目がひどく真剣だった。
「な?な?メール気になるだろ?」
 余りにも真っ直ぐに、しかも反論の余地もなく言い放たれた言葉に、ジタンは仕方なく頷く。恐らくバッツはそのアバター同士のメールの交換を見てみたいのだ。
「ああ…。まあな・・・」
 バッツがそう簡単に引き下がる相手ではないことを熟知しているジタンはここは好きにさせるのが一番と素直に頷いた。
「分かった」
 流石にスコールにも分かったのだろう。彼は圧し掛かっているバッツの額を軽くはたくと、その手を差し出した。
「アバターは作ってやる。それはそうと・・・。バッツ。あんたSNS入ってるんだろうな」
「あ・・・・・・」
 予想通りの答えに、スコールはがっくりと肩を落した。
「じゃあ、オレの先に作ってくれよ。スコール。で、その間にバッツに登録させるわ」
 仕方ないとジタンが己の携帯をスコールに放り投げると、バッツを手招く。バッツは「わりぃ」と頭をかきながらジタンの隣へと移動した。
(さあ・・・どうしたものか)
 スコールは、ジタンの携帯を操りながらあきれたような表情でボタンを操作し始めた。


「なあ、もうできたか?」
「見せてくれよ〜」
 それから二十分ほど携帯とにらめっこしていたスコールは、それこそ間をおかずに二人からの催促を受けて、辟易しつつも何とか作業をこなしていた。このアバターは案外オプションの数も多く選ぶのに時間がかかるのだ。
「・・・・・・」
と、スコールが仏頂面で携帯を差し出した。
「お。出来上がったのか」
「見せてくれ!」
 ジタンとバッツは、スコールから奪い取るように携帯を受け取ると、嬉々とした様子で携帯を覗き込んだ。
「えーっと…」
「まあ・・・。うん。分かるよな」
 二人の静かな感想に、スコールが深いため息をつく。
「だから、別に普通だと言っただろう」
 少しだけ苛立ったようなスコールの声に、二人が慌てて弁解する。それにあわせてジタンの携帯も上下にゆれた。その画面の中には、本人そっくりに作られた人型に、猫耳と猫の尻尾をつけ、フリルタイをつけたジタンそっくりのアバターが登録を待っていた。
 余りにも完成度が高すぎるが故に、多少面白みに欠けるそれに、二人は「ああ。やっぱり」と笑った。
 二人のそのあまりにもな反応に、スコールは機嫌を損ねたらしい。むっと眉間に皺を寄せる。が、数秒後その表情がにやりと歪められる。
「いや。スコールらしくていいと思うぞ」
 余りにも人の悪い笑みに、慌ててフォローに入るジタンだったがスコールの暗黒オーラは既に全身を包み込んでいた。
「バッツのは、放課後までに作っておく」
「あっ!ちょっ!」
 スコールはバッツの携帯を片手に腰を上げた。折りしも昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り始めた。まるで捨て台詞のようにはき捨てられたスコールの言葉を前に、バッツは時代劇にある、娘を借金の形に取られた父親のように片手を差し伸べて硬直するのだった。


「もう、登録済みだ」
 放課後、約束通り携帯を返しに来たスコールはそれだけを言うと部活に出るために教室を後にする。放り投げられたそれをしっかりと握りしめたバッツの背後からジタンが声をかけてきた。
「大丈夫だったか?バッツ」
 ジタンが心配そうに覗き込んでくる。バッツは、彼に促されて恐る恐る携帯を開いた。そこにはスコールらしい、完成度の高いアバターがひょこひょこと動いていた。
「あれ?普通?」
「そうでもないけどな」
 そこに表示されていた見事にバッツそっくりのアバターは、黄色い羽を背中につけた姿をしていた。だぼっとしたパーカーを身に纏い、ふわふわと浮いているその様子は、地に足をつけていないと評されるバッツにはぴったりとも言えた。それと共に羽が黄色いのは、バッツが飼っているチョコボを意識してのことなのだろう。
「結構。かわいいじゃん」
 しかも、やっぱりフツー。そう言って笑うバッツはどこか嬉しそうだった。しかし・・・。
 翌日朝一で教室に駆け込んできたバッツは、スコールに携帯を突き出して詰め寄った。
「スコール!どういうことだよ!」
 バッツにしては珍しく語気を荒げている。しかし眼前のスコールはそんなバッツの怒りなどどこ吹く風だ。
「おれのアバター、性別女ってどういうことだ!昨日からネカマ疑惑かかってんだけどっ!」
 言い募るバッツに、スコールは珍しく楽しそうな笑みを浮かべて言葉を返した。
「嫌だったら、自分で変えればいいだろう?」
 ああいうセンスが必要なの苦手なバッツには無理だろうなぁ。分かっててやってるスコールも案外いい根性してるよな。
 二人の痴話げんかを隣で聞きながら、ジタンはアホらしいと、ため息をついた。