初詣



「明けましておめでとうございますッス!」
 待ち合わせの場所に姿を現したティーダは、これでもかと言うほどに厚着をしていた。その丸く着膨れた姿でぎこちなく頭を下げる姿はほほえましい。
「四人で初詣なんて、今まで無かったもんな」
 そう言って、バッツが隣を見上げる。そこには、コートに身を包んで、マフラーで顔の半分を覆ったスコールが寒そうに眉間に皺を寄せていた。その姿にバッツは先刻からずっと笑い続けている。
「揃ったことだし。そろそろ行くか?」
 フリオニールが、人の流れを気にしながら三人に声をかける。流石に近場では大きめな神社ともなればそこそこ人出もある。四人はわいわいと騒ぎながら神社の境内を目指す。
「あ。屋台が出てるッスよ!」
 神社の参道の脇、道を連ねるように並んだ屋台を見ながら、ティーダが楽しげに声を上げる。普段買い食いの類などを禁止されているティーダには、ここは魅惑のゾーンとも言えた。
「な。後で、ちょっとだけ…」
 ティーダが隣で呆れた顔をしているフリオニールを拝んで言う。フリオニールは、呆れたような困ったような表情を浮かべ、ティーダを見下ろしていた。
「明日からちゃんとセーブするッスから!」
 学生とは言え、既にプロからもオファーが来ているスポーツ選手でもあるティーダにとって、体調管理は必須の条件とも言えた。それを判っているので、普段は調子よくあわせるバッツもスコールもこれに関しては口を挟むことは出来ない。二人は前を歩くティーダとフリオニールを眺める。
「…仕方ない。今日だけだぞ」
 大きな溜息をつき、フリオニールがOKを出す。
「やったぁ!」
 飛び上がってティーダが声を上げる。その心底嬉しそうな声に、周囲の人々や屋台の店主たちまでがくすくすと笑っている。
「ほら。行くぞ」
 周囲の反応に顔を赤くしたフリオニールが、ティーダの手を引いて歩き出す。引っ張られるようにして歩くティーダの視線は完全にどの屋台を巡るかという選別の目になっていた。
「なんか、微笑ましいな」
 その光景に楽しげに笑いながらバッツが隣を歩くスコールを見上げた。スコールはその言葉に小さく頷き返す。参道は人が増え始め、うっかりするとはぐれかねない。
 スコールは周囲を見回し、バッツの傍らにその身を移す。
「ん?どうかしたか?」
 バッツが隣に移動してきたスコールに尋ねる。と、同時に背後から流れてきた人の波に押されて、僅かによろけた。スコールは慌てて手を伸ばし、バッツの体を支える。
「…気をつけろ」
 渋面を作りながら溜息をつくスコールに、バッツは「ごめん」と笑ってみせる。
「さすがに人、増えてきたなぁ」
 笑うバッツの手をとると、スコールは少しだけ目元を赤くしてその手を握り締めた。
「はぐれると困る」
 突然のスコールの行動に、つられて顔を赤くしたバッツは嬉しそうに微笑を浮かべる。
「早く行くぞ。あっちともはぐれる」
 スコールは赤くなった顔を隠すようにそっぽを向くと、バッツの手を引いて歩き出した。珍しく積極的なスコールに、バッツは機嫌を損ねないように気をつけつつも、口元の笑みを隠すことが出来なかった。
「おーい。スコール。バッツー」
 前方ではやはりはぐれないようになのか、それとも素なのか。手をしっかりと繋いだティーダが二人の名を呼んで手を振っている。流石に隣に立つフリオニールは恥ずかしいのか顔を赤らめてはいるが、どこと無く嬉しそうにしている。
 スコールとバッツは少し足を速めて彼らの元にたどり着く。近づいてきた二人に、ティーダは楽しそうに声を弾ませて少し先に見える寺社を指差した。
「な。後でおみくじやらないッスか?オレ、今なら大吉引ける気がするッスよ」
「お。いいねぇ。おれは今年は何が出るかな」
 やけに乗り気なティーダとバッツの会話を聞きながら、スコールは顔を顰めていた。
「スコールは、今年も凶がでんのかな?」
 いっそ面白そうに言うバッツの言葉に、スコールは眉間に皺を寄せて睨みつける。その傍では同情するような表情をしたフリオニールが視線を逸らしていた。
「今年こそは…」
 ぐっとこぶしを握り締めるスコールは、まるで何かに挑むようにおみくじの箱を睨みつけたのだった。