ジェラシー…?


「ジタン。何やってんだ?」
 放課後、待ち合わせの場所に先に到着していたらしいジタンが、自身の携帯ゲーム機を見ながら、ニヤニヤしていた。走ってきたバッツは、そんなジタンの様子に、興味深そうに尋ねる。
「ん?これ。テレビでやってたやつ。『フレンドコレクション』ってやつ」
 腕を伸ばし、ジタンがゲームの画面をバッツへと見せる。
「え!マジかよ。うわ。これがそうなんだ」
 興味津々で覗き込んでくるバッツに、ジタンは楽しそうに頷いてみせる。彼は手馴れた様子で画面をいじり、トモダチリストなるものを開いて見せてくれる。そこには既に20人ほどが登録されおり、名前を表示するごとにデフォルメされたキャラがちまちまと動いていた。
「何をしているんだ」
 少し遅れて現れたスコールが、ワイワイと騒いでいる二人のそばに近づき、やはり携帯ゲーム機を覗き込む。
「ああ。この間言ってたやつだよ」
「ああ。フレコレだな」
 わかった風に話す二人に、一人だけ知らなかったバッツは少しだけ拗ねたように口を尖らせたが、すぐに表示されたリストに視線を落とした。
「あ。おれもいるのか」
「あ…ああ。いるぜ」
 なぜか一瞬言葉を詰まらせたジタンが視線を外しながら言った。何故ジタンが緯線を外すのかと思いつつもバッツは表示されたキャラクターを眺めていく。
「あ。おれとスコールとジタン、友達だってさ」
 無邪気に笑うバッツの姿に、なぜかスコールが居心地悪そうに「ああ」と相槌を打つ。
「こうやって、キャラクター作っとくとさ。勝手に生活してくれるんだ」
 ジタンが専用のスティックペンで画面を操作する。画面に現れた小さな島の中央にマンションが立っており、その窓辺に明かりがついている。電気がついたり消えたりしているだけでなく、吹き出しに黒いもやもやが移っていたり、緑の人影が表示されたりと、案外多彩だ。と、突然その中のひとつの窓からピンク色のハートが現れた。
「あ。誰か恋愛フラグがたった」
 ジタンがなにやら楽しそうに声を上げる。と、そばにいたスコールもそれにつられる様に画面へと視線を移す。
「何だ。恋愛フラグって」
 バッツが尋ねると、ジタンはその部屋の窓をダブルクリックしながら間単に説明を加える。それによると、作られたキャラクターは自分勝手に恋愛感情を持ち、告白などもし、場合によっては結婚もするのだという。今、表示されたピンクのハートは、誰かがほかの誰かに告白をしたいという合図なのだと言う。
「へぇ〜。現実味あんなぁ」
 関心しながらバッツが画面を見入る。
「で、これは誰なんだ?」
 今、窓に恋愛フラグの表示がある部屋を見ると…それは、ティーダだった。
「へぇ。ティーダまで作ったんだな」
 そういう言っている横で、スコールがやはり気になるのか画面を眺めている。
『実はバッツのことが好きです。告白をしようと思うのですが…』
 機械音でポリゴンのティーダが赤くなりながら言い出す。そのせりふに、バッツが「え?」と素っ頓狂な声を上げ、スコールが硬直した。
「…こんなこと言われるんだ」
 なぜか顔を赤くしたバッツが隣のジタンを眺める。ジタンはなぜかばつの悪そうな表情を浮かべて曖昧に頷いた。しかも話はそのまま進んでしまい、デフォルメキャラのティーダは、雪の積もった公園で土下座をしてバッツに告白をして見せた。その様子に心を打たれたのかは別として、デフォルメキャラのバッツはティーダの告白にOKの返事を返す。
「……」
「……」
「……」
 その光景を三人は言葉もなくただ見守るだけだった。と、突然腕が伸び、ジタンの携帯ゲーム機の電源を落とした。一瞬文句を言おうとしたジタンだったが、その腕がスコールのものであることに気がつき、言葉を飲み込んだ。
「…悪かったよ」
 何故か謝るジタンに、スコールは小さく頷いた。彼は手慣れた風にゲーム機の電源を入れた。その手が動き、何かを行っているらしいのだが、一番背の高いスコールに手元で弄られると、こちらでは何をしているのか判らない。
 スコールは一通り動かし終えると、再度電源を落としてゲーム機をジタンの手に戻す。ジタンは何をされたのか気になるらしいが、隣のバッツが何かを聞きたそうにしているので集中することができない。
「なあ。そういえばどうしておれが、ティーダに告白されるんだ?」
「…お前のキャラの性別、女にしたからだろ」
 何故かスコールの方へと視線を向けながらジタンが言う。視線を向けられたスコールはその視線から逃れるように明後日の方を向いていた。
「…そっか…」
 何かを感じたのか、バッツはそれ以上言葉を重ねることはなく、薄く笑った。
「そ。ちょーっと、ご要望があったもんでね」
 そういいながらゲームを開いたジタンが、突如硬直した。
「…スコール。お前…」
「……」
「キャラ、消したな…」
 ジタンが呆れたような疲れたような表情を浮かべながらじっとスコールを睨み付けた。睨まれたスコールは、明後日の方向を向いたまま何故落ち着かなそうな風情をしている。
「…いいけどよぉ。育てんの大変なんだからな。これ」
 がっくりと方を落としたジタンの言葉に、スコールは「悪かった」と、小声で謝罪した。


 その後、ジタンのゲーム内において、キャラクターのスコールがバッツへ熱烈な告白をした模様が、二人に動画で送られてきた。その、あまりにも奇抜で必死なスコールの告白に、しばらくは三人の中でネタにされたのだった。
『給食のプリンをあげるから、つきあってください!』