Edible flower サンプル2



「助けてくれて…ありがと…」
 言い慣れないのか、恥ずかしそうに俯き言葉に詰まりながら礼の言葉を告げた少年に、彼はゆっくりと振り返る。
「何だ。別に気にしなくてもいいのに」
 青年は、そう言いながらあっけらかんと笑った。一括りにされた鋼色の長い髪が微かに揺れる。ティーダがどう反応して良いのか判らず顔を上げる。黄色味の強いトパーズの瞳が柔らかく笑みを浮かべ、少年を見下ろしていた。
 青年は再度背中を向けると、手際よくサンドウィッチを作り上げ、ティーダの前に皿を置いた。
 目の前に置かれた食料に、ティーダの腹が素直に空腹を訴えて音をたてた。
「とりあえず、食べろ。あり合わせのもんで悪いけどさ。話はそれからな」
 盛大な音に微笑を浮かべ、青年はサンドウィッチとミネラルウォーターをティーダの前へと置いた。
(腹が減ってはなんとやら…ッスよね)
 ティーダは素直に目の前に出された食料に手を伸ばす。何らかの方法でエネルギーを調達しなければ体を維持することもままならない。ティーダは柔らかなパンを手に取ると、それを一気に頬張った。
「……美味い!」
 もぐもぐと口を動かしながらティーダが叫んだ。余りに子供じみたその光景に触発されたのか、青年は声をあげて笑う。
「こんなもんで良ければ何時でも喰わせてやるぞ?」
 青年は勢いよく食べる少年を楽しそうに見る。
「れも、ほんほ…んまいっス」
 必死に口を動かしながら、目を輝かせるティーダはそれこそ幼い子供のように感想を述べる。
「…しゃべるか、食べるかどっちかにしろ。舌噛むぞ」
 呆れたように青年が笑った。言われたティーダは、喋るのを止め、サンドウィッチを平らげることに専念する。あっという間に皿の上のものを片づけると、グラスに入った水をこれまた一気にあおった。
「はぁ〜。ご馳走さまっした!」
 ティーダは両手をパンと合わせて軽く頭を下げる。
「お粗末さまでした」
 やはり同じように頭を下げた青年が、今度はじっくりとティーダを眺めた。二人は、お互いの顔を見つめてにっこりと笑った。
「オレはティーダ。アンタは?」
 ティーダは、金茶の髪を揺らしてにっこりと笑った。
「俺は…フリオニール。この花屋の店員だよ」
 フリオニールと名乗った青年は笑いながら言った。
「ここで?」
「ここは、店の裏。店員の休憩室だよ」
 ティーダの問いかけに、フリオニールは苦笑を浮かべた。
「で。ティーダは何であんなところで倒れていたんだ?」
 フリオニールが尋ねる。ティーダは「それは…」と言いかけて、ふと言葉を切った。
(な…何て説明すればいいッスか)
 脳内をぐるぐると言葉が回る。まさか、普通の人間相手に実は悪魔の卒業試験で、人間の精気から生成される宝石を手に入れるために人間界にやってきたなど言える筈もない。
「え…ええっと…」
 どうしたらいいかと悩んでいたティーダの様子に、フリオニールが不思議そうに首を傾げた。


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