DISSIDIA SAGA2 サンプル2



 街に繰り出したバッツは、商店を流しながら少しずつ周囲に目を配って歩く。いわゆる高級住宅街と呼ばれるそこは、騎士団や憲兵の見回りも厳しいと聞いた。それだけにそれなりに顔の利きそうな相手を選別したいものだ。そう思って歩いていると、印象的な後ろ姿がバッツの目に留まった。
 濃いチョコレートブラウンの髪。背は高く広い肩幅。真っ直ぐに風を切って歩く青年の後ろ姿。
「…あれは」
 先日出会った憲兵隊の小隊長、スコールだ。一度見ただけの背中だが見間違えるはずが無い。それほど印象的だった、少年と青年の間を揺らいでいる姿。
 昨日の調子のままにスコールに近づき、声をかけようとしたバッツだったが、直前で自分が今変装をしていることを思い出した。
 今この姿で声をかけたなら、彼は気が付くだろうか…。
 何故、そんなことを思ったのか。気が付いて欲しくないという気持ちと、気が付いて欲しいというそれがない交ぜになり、バッツの動きを押し止める。
 その時、背後の気配に気が付いたのか目の前のスコールが振り返った。
「…っ!」
 思わず息を飲んだバッツを不審そうに見下ろし、スコールは険しい表情を浮かべたまま言葉を続ける。
「俺に何か用か?」
「え…。あっ…」
 スコールが全く気が付いていないことに、どう反応していいのか判らず言葉を失ったバッツは、慌ててその場を取り繕う。
「あ…あの、ごめんなさい。知り合いに似ていたもので…」
 とっさのことにそんな言い訳しか出てこない。流石にスコールも不審に思っているだろうと、目の前の彼を見上げる。と、スコールは何故か少しだけ眉を寄せてバッツを見下ろしていた。
「あの…?」
 その様子を不思議に思ったバッツが微笑を浮かべて小さく声をかけるとスコールは微かに目を泳がせ、目元を染めた。
「……何でもない」
 何でもないという割には彼の表情はどこか落ち着かない。バッツに対して思うところがあったのか、それとも変装だと気が付いたのか…。
 前者ならこのまま利用させて貰おう。後者であるならばどこまで気が付いたのか確認しなければ。
 そう理性的に考えると同時にバッツの悪戯心が動いた。
 彼が乗ってくるかどうかは判らないが、少なくとも自由に街を見舞われる立場にあることは確実だろう。少し強引かもしれないが、試す価値はありそうにも思えた。それに、何よりも少しの間でもいいから彼と行動をしてみたいと言う衝動に駆られた。
「私は、ラキシスと申します。人違いをしてしまい、申し訳ありません。ええっと…」
 バッツがにっこりと笑顔を見せて笑った。その笑顔にスコールは暫くバッツの顔を見下ろしていた。
「俺はスコール」
 スコールは短くそれだけを答える。


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